2012年 10月 17日
ヴァイオリニスト諏訪根自子の記憶 |
ヴァイオリニスト諏訪根自子の訃報に接した。かつて、「天才美少女現る」としてクラシック・ファンの胸を騒がせた存在だったことを、懐かしく想い出す。思えば彼女は、巌本眞理、辻久子とともに、いまや多彩な人材を輩出しつつある日本の女性弦楽器奏者の先駆者であった。
久しぶりに聞いた「諏訪根自子」の名前に、古く懐かしい記憶が蘇った。
それは戦後間もない1947年、当時廃墟と化していた名古屋の中心部に唯一焼け残っていたビル・名宝会館で催された「名寳秋の音楽會」である。
これについては、以前、このコラム前身である「Runde Weekly Spot」で取り上げた。それを再現してみようと思う。
《Runde Weekly Spot》 2002年7月22日号
●掘り起こされる記憶
名古屋納屋橋にある「名宝会館」の閉館取り壊しが決まったようです。オープン以来67年の老朽建物とあれば仕方の無いことかも知れません。しかし、このニュースを聞いて、このところ(それこそ何十年も)全く関心を払わなかった「名宝」について、懐かしい記憶が鮮烈に蘇ってきました。
終戦の翌年、疎開先から戻った翌朝に近くのお城の土手に登って見た中心街......一面瓦礫の焼け野原の先にポツンと残っていたのが名宝会館のビル----それは今も忘れ得ぬ、心にしっかり刻まれている風景でした。
報道はもちろんもっぱら映画館としての歴史に集中していますが、かつてここ(名古屋寶塚劇場)は、クラシック音楽の拠点でもありました。そんな記憶をとどめるプログラムが手元にあります。
コンサートは1947年9月8〜10日で、三日間興行というのも珍しい。出演者は『ヴアイオリン獨奏:諏訪根自子 獨唱:藤原義江 ピアノ伴奏:マンフレット・グルリット』(字体は原文のママ。以下同様)——おお懐かしい名前だ! そして下段に『厚生事業資金醵集 主催:朝日新聞厚生事業團』と。チャリティ・コンサートのハシリか?
『曲目』は諏訪氏が『ヴイターリ:シャコンヌ、メンデルスゾーン:ヴアイオリン協奏曲、ウイニアウスキー:華麗なるポロネーズ』ほか。藤原氏は『シューベルト:汝は憩ひなれ、民謡集より:ケンタッキーホーム、馬追手綱』等々。
そして『お詫び』に曰く『皆様の御期待を戴きました「藤原歌劇團」名寶第二回公演「椿姫」は止むを得ざる理由により中止......次回公演は慎重を期し十一月中旬に「タンホイザー」を以て皆様の觀賞に供する豫定......今回は右の事情の為突如、諏訪根自子、藤原義江、マンフレット・グルリット出演による「音楽會」と代えました悪しからず御諒承を願ひます』。
ペラペラの粗悪紙(B5版見開き四頁。右開き!)に、それでも三色印刷の表紙、裏面は「音響科学の粋を集めて完成した」ナショナルの電蓄(三バンド・オールウェーブ・ラジオ、マグネチック・ピックアップ、UZ−42眞空管使用、消費電力約90ノット......オオこれまたオナツカシヤ)新發賣の全面広告......すっかり変色してボロボロになってしまったそれは、今や貴重な歴史の証人でもありましょう。
(以下 略)
久しぶりに聞いた「諏訪根自子」の名前に、古く懐かしい記憶が蘇った。
それは戦後間もない1947年、当時廃墟と化していた名古屋の中心部に唯一焼け残っていたビル・名宝会館で催された「名寳秋の音楽會」である。
これについては、以前、このコラム前身である「Runde Weekly Spot」で取り上げた。それを再現してみようと思う。
《Runde Weekly Spot》 2002年7月22日号
●掘り起こされる記憶
名古屋納屋橋にある「名宝会館」の閉館取り壊しが決まったようです。オープン以来67年の老朽建物とあれば仕方の無いことかも知れません。しかし、このニュースを聞いて、このところ(それこそ何十年も)全く関心を払わなかった「名宝」について、懐かしい記憶が鮮烈に蘇ってきました。
終戦の翌年、疎開先から戻った翌朝に近くのお城の土手に登って見た中心街......一面瓦礫の焼け野原の先にポツンと残っていたのが名宝会館のビル----それは今も忘れ得ぬ、心にしっかり刻まれている風景でした。
報道はもちろんもっぱら映画館としての歴史に集中していますが、かつてここ(名古屋寶塚劇場)は、クラシック音楽の拠点でもありました。そんな記憶をとどめるプログラムが手元にあります。
コンサートは1947年9月8〜10日で、三日間興行というのも珍しい。出演者は『ヴアイオリン獨奏:諏訪根自子 獨唱:藤原義江 ピアノ伴奏:マンフレット・グルリット』(字体は原文のママ。以下同様)——おお懐かしい名前だ! そして下段に『厚生事業資金醵集 主催:朝日新聞厚生事業團』と。チャリティ・コンサートのハシリか?
『曲目』は諏訪氏が『ヴイターリ:シャコンヌ、メンデルスゾーン:ヴアイオリン協奏曲、ウイニアウスキー:華麗なるポロネーズ』ほか。藤原氏は『シューベルト:汝は憩ひなれ、民謡集より:ケンタッキーホーム、馬追手綱』等々。
そして『お詫び』に曰く『皆様の御期待を戴きました「藤原歌劇團」名寶第二回公演「椿姫」は止むを得ざる理由により中止......次回公演は慎重を期し十一月中旬に「タンホイザー」を以て皆様の觀賞に供する豫定......今回は右の事情の為突如、諏訪根自子、藤原義江、マンフレット・グルリット出演による「音楽會」と代えました悪しからず御諒承を願ひます』。
ペラペラの粗悪紙(B5版見開き四頁。右開き!)に、それでも三色印刷の表紙、裏面は「音響科学の粋を集めて完成した」ナショナルの電蓄(三バンド・オールウェーブ・ラジオ、マグネチック・ピックアップ、UZ−42眞空管使用、消費電力約90ノット......オオこれまたオナツカシヤ)新發賣の全面広告......すっかり変色してボロボロになってしまったそれは、今や貴重な歴史の証人でもありましょう。
(以下 略)
by drinkingbear
| 2012-10-17 14:22
| 雑感